いわば、米国市場は、かつて米国メーカーの「ビッグ3」が支配した時代から、日本車メーカー3社に現代自動車を加えた「ビッグ6+1」の時代への転換が進んでいると表現できます。
現実の市場は、デトロイト3をより追い込む方向に向かっています。
小型乗用車、小型SUV、プレミアムブランド、クロスオーバー、ハイブリッドなど、これから米国で成長する車種でデトロイト3に比較優位は乏しいと言えます。
デトロイト3の収益源となるフルサイズ・ピックアップ市場への日本車メーカーの参入はこれから本格化します。
かつては絶対的な力を誇った販売網も、フランチャイズの返上が続くなど、減衰が続いています。
図表3 -11に、2007年までの市場シェア見通しを示しました。
日本車の市場シェアは、06年が36.2%、07年には37.9%へ順調な上昇が続くと我々は見ています。
SAAR (季節調整済み年率換算販売台数)の水準自体は、デトロイト3のリストラクチャリングの進展や財務健全性再構築の程度次第で変わるため、流動的な側面があります。
しかし、中期的視界は良好で確実性が高く、順調に日本車のシェアの上昇が続くでしょう。
読者が有価証券報告書などの財務資料で目にする地域別セグメントの収益情報は、通常、所在地セグメントという、北米子会社を地域連結した財務結果に限定されます。
しかし、前章で指摘した通り、日本車メーカーのセグメント情報は実態を映しきれていません。
所在地では、日本から輸出される車の製造利益は日本セグメントの利益となります。
米国子会社から支払われる多額のロイヤルティは日本の利益ですが、米国のコストとなります。
移転価格の変動は、内外の利益の分け方を大きく変えてしまいます。
また、日本にある本社が、海外販売促進費用やディーラー開発費用を肩代わりする地域も多くあります。
このような費用を実際の販売地域に振り分け、地域ごとに売上から費用を差し引いて実際にどの地域の販売がどの程度儲かっているかを見たものが前章でも触れた仕向け地利益です。
所在地利益も大切ですが、実際の、自動車メーカーの経営判断では、仕向け地、つまり最終販売ポイントでの利益がいくらかという仕向け地利益が重要視されています。
日本車メーカー6社(トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、マツダ、スズキ、富士重工業)合計の連結営業利益に占める北米セグメント営業利益は35%にすぎないのですが、仕向け地営業利益は70%近くとなり、日本車メーカーの収益の大黒柱であることが窺えます。
JPモルガンの仕向け地分析に基づけば、日本車メーカーにとって北米は、営業利益率が2桁を維持する非常に高い収北米仕向け地コントリビューション営業利益と利益率の推移集計分析対象会社はトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、マツダ、スズ仕向け地ベースの利益はJPモルガンの独自分析に基づき、生産利益と関益性を誇る市場です。
つまり、収益の大部分が米国を中心としているのです。
米国での収益性が非常に高い背景にはいくつかの要素があります。
第1に、販売価格の高さ、製品構成の豊かさが挙げられるでしょう。
自動車は同等の商品でも地域と時間軸で常に実売価格が変動することが特徴です。
自動車販売価格は米国が相対的に高く、欧州が低いという傾向があります。
また、エンジン排気量の大きさやオプション装備の装着率の差など、米国で販売する商品は魅力的な製品構成を持っています。
第2に、金融事業収益の高さがあります。
米国では販売する車両の約50%は自社子会社でファイナンスを提供します。
この金融債権は比較的低いリスクで高いスプレッド(利ざや)を生み出せ、自動車販売をサポートしながらも、高い収益を稼ぐことが可能となります。
第3に、為替のアドバンテージです。
現地生産車両比率は70%程度であり、依然、30%は日本からの輸入車販売のため、為替変動による収益変動要因があります。
プライスリーダーである米国メーカーが高コストにあえぐため、費用管理に優れる日本車メーカーは高収益を獲得しやすいということもあります。
固為替抵抗力の強い体質へ為替は北米収益率を決定する非常に大きな要素です。
日本車メーカーの米国における現地生産比率は大幅に拡大し、2005年段階で67.1%に達していますが、言うまでもなく100%ではないわけで、そこには為替の影響が発生します。
外貨売上高と外貨費用は為替変動に応じて動きますが、円で計上した費用は変動しません。
売上通貨と費用通貨との差異がいわば為替の影響となるわけです。
このような売上通貨とコスト通貨の差異による為替の影響をトランザクション(取引)為替影響と呼びます。
1ドル当たり1円の変動は、業界全体で北米仕向け地営業利益を700億円以上変動させる要因と試算されます。
為替が10円の円高に振れると、北米の仕向け地利益を実に30%押し下げる厳しい影響を生み出すのです。
現在の潤沢な北米利益も為替変動の前には脆弱であるという事実があります。
先にも述べたように、為替は常に変動するもので、かつ、予測が困難です。
一時的にヘッジをかけて為替リスクを回しても、それには多大な費用もかかりますし、問題の本質的な解決となるわけではありません。
「プラザ合意」当時のような短期的かつ劇的な為替変動を吸収することは困難ですが、地道な努力を積み上げて、為替抵抗力の強い体質を作っていくことが重要な経営課題です。
日本車メーカーは、北米生産比率の持続的な引き上げ、アジア地域での収益基盤の確立、国内収益力の改善という経営努力を続けています。
1年間で10〜20円の大幅な為替変動を短期的に吸収することは困難ですが、年間5円程度の為替の動きは、日本車メーカーの経営努力で吸収できる範囲内と言えるでしょう。
この程度の為替変動が持続しても、実態的なファンダメンタルズの姿が大きく変わるものではないと考えます。
現在の日本車メーカーが誇る非常に高い北米の収益性が持続可能かどうかは、株式市場では非常に関心が高い検証事項となっています。
日本車メーカーの北米収益性は、主力の乗用車市場におけるブランドカ、コスト競争力、高効率などの比較優位から生み出されるものでした。
しかし、韓国車メーカーの台頭や市場の消費者嗜好の変化を考慮すれば、乗用車における日本車の比較優位は徐々に減衰する可能性が考えられます。
とりわけ韓国車の台頭は、そうした懸念を一段と深めるものとなっています。
中・長期的に、日本車メーカーの北米における収益力の持続性は、ライト・トラック事業とプレミアムブランドの販売数量と採算性の拡大にかかる部分が大きいと考えられます。
ライト・トラック事業は、伝統的なスポーツ・ユーティリティ(SUV)やピックアップなどのトラック商品と、近年拡大が著しいクロスオーバー商品の両面があります。
日本車メーカーは、開発リードタイムの短さ、生産設備の柔軟さ、コスト競争力に優れるプラットフォームを武器に、クロスオーバー商品で比較優位を一段と拡大させる可能性が高く、強い成長のドライバーとなりそうです。
今後は、米国自動車メーカーの牙城である、伝統的な大型トラック市場での規模とコスト競争力の確立が大きな鍵を握ります。
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